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分かちあう語り

2006年12月 児童図書館研究会
幼児、低学年のお話会で私はよく、聞き手の子どもたちも一緒に歌ったり、繰り返しの言葉を唱和したりしてお話を進行させていく「参加型のお話」を語ります。語りの空間は語り手と聞き手の協同作業によって成立するもの、とよく言われていますが、聞き手も語り手と共に語りを分担する参加型の語りは、まさにこの協同作業を目に見える形にしているスタイルの語りです。聞き手も声を出し、たっぷり楽しんだお話は、身体の中にリズムと共に残っています。知らず知らずの内に、子どもたちに口承技術も伝達しているのです。

今年の十月に会津若松市で開催された「全日本語りの祭り」の夜語りで私はアフリカのお話「名前」(『ストーリーテリング入門』所収。一声社)を語りました。狭い部屋にぎっしり詰めかけた参加者たちは、「♪ツイテルヨ、ツイテルヨ…」と、共に小鳥の粉搗き歌を唱和し、手拍子を打って、名前当てのスリルに興じてくれました。皆、心を開放し、語り手と聞き手が一体となって創り上げていく一期一会の空間がそこにはありました。

私がこの聞き手参加の語りに始めて出会ったのは1990年秋のことです。米国コネティカット州に駐在員家族として暮らし始めた頃、町の図書館でのストーリータイムで、児童図書館員ケイト・マクレランドのストーリーテリングに合わせて、子どもたちが嬉々として唱和したり、動作をしたりしている姿を見た時の嬉しい衝撃を忘れることはできません。私はその後の三年半、ケイトのストーリータイムにボランティアとして通い続けました。彼女から学んだことは単にお話会運営のノウハウだけではなく、ストーリーテリング精神そのものだったと思います。

ケイトはコルデコット賞の審査委員長を務めるほどのすぐれた児童図書館員でした。子どもたちに本を手渡すことを喜びとしている、米国の、どちらかといえば保守的な児童図書館員でした。けれど、そのケイトのストーリーテリングは、決して暗誦の語りではなく、表現力豊かで、表情たっぷりの語りでした。視線は常に聞き手の子どもたちに向けられ、聞き手に語りかける語り、まさしく「分かちあう語り」だったのでした。
十数年昔に体験したケイトのストーリータイムが今もあざやかに蘇ってきます。
「お話って楽しい!」「お話大好き!」
そう言ってもらえるようなお話空間を子どもたちと共有したい、と願う時、あのペロットライブラリーの窓からこぼれる陽射しを思い出すのです。
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